第34回文学フリマ東京 出品作品
溺れる魚は霧吹きをかける
「昨日、あなたが私を持って帰った」 毎日キノコに霧吹きをかける生活というのは、きっと素敵なものに違いない。 最近仕事を辞めた私は、たまたま訪れた鎌倉の森にある喫茶店にて、真白なキノコを貰い受ける。 毎朝キノコに霧吹きをかけ、職安に通う日々は、思いの外楽しい。 だが、私が持ち帰ったのはただのキノコではなかった。 猛毒があり、よく食べ、よく寝た。 彼女は確かに生きていた。 「なんでも食べる。チーズトーストでも、カレーでも。ナポリタンも好き」 その上、喫茶店メニューに偏っていた
感染幻
今日も隣人はペストマスクを付けて出かけていく。 感染者に幻覚を見せるという謎の病原体〈ハルシナウィルス〉が蔓延するようになった世界でペストマスクをつけて生活する奇妙な隣人がいた。 不意に生まれたその隣人〈ペストさん〉との交流から私は不思議な病へと憑りつかれはじめる。 この謎の病はどこからやってきてどこへ行こうとするのか。 私はやがてその感染〈幻〉に触れることとなる。